2019/10/01
お客様から二枚のペルシャ絨毯のフリンジ修理を依頼されました。
一枚は1970年代に製作されたアフマド・セーラフィアンの作品。
この絨毯は常連のお客様が以前、国内のコレクターの方から譲り受けたものでした。
上下のキリムとフリンジに傷みがあったので関西の某絨毯屋に修理を依頼したところ、「これは偽物だから」といい加減な修理を施された上、頼んでもいない箇所を勝手にいじくり回されたそうです。
結構な代金を支払ったとのことですがお客様はまったく満足されておらず、再修理できないものかと相談を受けました。
現物を拝見させていただいたのですが修理法が適切でなく、いい加減な修理というよりは職人の技量によるもののようです。
弊社にて稚拙な修理が施された箇所をすべて元に戻し、初めからやり直しました。
下部のキリムは横糸を3列加えて一直線になるようにし、上部のキリムは横糸を5本加えて下部と同じ幅になるようにして編み直します。
細やかな作業のためかなり時間がかかりましたが、段差のあった下部のフリンジの根元部分は綺麗に揃い、上部のフリンジも自然な感じになりました。
絨毯のノット数に対して大きすぎた団子結びのピッチも小さくしたので、高級感が増しています。
もう一枚はヘクマトネジャード作のイスファハン絨毯。
1960年代の作品で、アフマド・セーラフィアンの作品と同じコレクターの方から譲り受けたものとのことです。
こちらも上下のフリンジが摩耗していたので修理を施しました。
一般に行われる修理はフリンジをすべて切除した後、新しいフリンジを縫い付けるというもの。
この方法は簡単ですが、フリンジがオリジナルでなくなる上、縫い付けた箇所は外れやすくなります。
お客様のご要望が「オリジナルの部分を残しつつ、できるだけフリンジが長くなるように」とのことでしたので、画像にある方法を採用しました。
団子結びを解き、更にキリムを3列解いてフリンジを長くしたのち、二結びで留め直しました。
この方法はとても手間がかかりますが、フリンジはオリジナルのまま、しかも傷みにくいです。
腕のよい職人は絨毯の価値を高めてくれますが、腕の悪い職人にかかればたとえ素晴らしい絨毯であったとしても、無価値にされてしまうこともしばしば。
かくも修理とは恐ろしさを秘めたものながら、修理に真剣に向き合う絨毯屋はほとんどおらず、職人に丸投げするだけというのが普通でしょう。
はっきり言いますが、修理の下手な絨毯屋は、たとえ地域の有名店であったとしても"三流"です。
「たかが修理」と絨毯に愛情を注げないような店に、良い品物が集まる筈がありません。
水は低きにつくのです。
修理のレベルは店の信用度を示すバロメーターであることをぜひ知っておいてください。