ペルシャ絨毯の【正しい】選び方

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はじめに

ペルシャ絨毯は高価なだけに、いきなり店の扉を開けるのはためらわれるものです。
購入に際しては、様々なサイトや書籍を見比べながら情報を集めることから始めるのが普通でしょう……しかし、その前に知っておいてほしいことがあります。
40年ほど前までペルシャ絨毯には馴染みのなかった日本。
そんなわが国に溢れるペルシャ絨毯についての情報には、まったくの事実無根や間違いが含まれているのが実際です。
販促活動のため、意図的に事実を歪曲する絨毯商もいます。
誤った先入観や我田引水的な説明につられて高い買い物をしないよう、ペルシャ絨毯の【正しい】選び方について解説してゆくことにしましょう。

ペルシャ絨毯の定義

ペルシャ絨毯とは

わが国ではペルシャ絨毯の定義をご存知でない方が多く、それゆえペルシャ絨毯でないものをそれと信じて購入されている方が多くいます。
失敗なくペルシャ絨毯を選ぶためには、まずその定義について知っておく必要があるでしょう。

ペルシャ絨毯とは「イラン国内で製作された手織絨毯」を言います
したがって、トルコ、コーカサス、アフガニスタン、ウズベキスタン、ルーマニア、エジプト、パキスタン、インドや中国等々、イラン以外の国で製作された絨毯は、手織でデザインが似ていてもペルシャ絨毯ではありません。
また、イラン国内で製作されたものであっても、機械を用いて製作された絨毯はペルシャ絨毯とは言いません。
ネットオークション等でよく見かける「機械織ペルシャ絨毯」など、現実には存在しない訳です。

ペルシャ絨毯が多くの人を魅了するのは「伝統」に裏打ちされた手工芸品だから
栄華と悲哀とに満ちた長い歴史の中で、延々と育くまれた技術なり文様なりが付加価値となっているからです。
トルコ絨毯やコーカサス絨毯、アフガン絨毯をはじめとする中央アジアの絨毯などについても、わが国で人気があるかどうかは別にして、欧米には多くのコレクターがおり十分にその価値を認められていると言えるでしょう。

しかし、ペルシャ絨毯をそっくりそのままコピーして製作されたインド絨毯や中国絨毯は、いくら高値で販売されていたとしても単なる「実用品」に過ぎません。
なぜなら、そうした安易なコピー品には付加価値の素となる「伝統」という二文字が欠落しているからです
それは、こうした品々がコレクターの収集対象となり得ておらず、一流オークションハウスで取扱われることがないことからも明らかでしょう。

ペルシャ絨毯ではないものをそれと偽って販売している者は店舗を持たず、前述したとおりネットオークション等に出没しているのが常
掘出し物狙いの素人が集まるネットオークションは詐欺師たちにとっては恰好の漁場である上、トラブルになればすぐに身を眩ませることができます。
なお、こうした悪徳業者の中には、品質表示ラベルにman silk 100%とあるのを「シルク100%」と説明する者がいますが、man silkは化学繊維のレーヨンのこと。
シルク=絹ではありませんから騙されないように。

※関連記事【ネットオークションに出品されているペルシャ絨毯は本物ですか?】

ウールかシルクか

ウールかシルクか

ペルシャ絨毯はウール絨毯とシルク絨毯とに分けられますが、シルク絨毯が高級品でウール絨毯は低級品などということはありません
ペルシャ絨毯の値段を決める最大の要素は人件費。
それについては後の項で述べるとして、ウール絨毯であっても同じサイズのシルク絨毯より高価なものはたくさんあるのです。

ウール絨毯にするかシルク絨毯にするかは、使用する場所によって決めるのが正解。
それぞれの特性を知った上で使い分けるのが、大切なペルシャ絨毯を長持ちさせるコツでもあります。
オールマイティに使用するのであれば、何と言ってもウール絨毯
場所を選ぶことなく使える上、またお手入れも楽です。
ウールは夏場に向かないと考える人がいますが、そんなことはありません。

一方、日本で人気のシルク絨毯は摩擦に弱く、それゆえダイニングセットの下など椅子を頻繁に出し入れするような場所には不向きです
「欧米では土足で使っている」などと説明する絨毯業者がいますが、それは耐久性に優れたウール絨毯に言えることであって、シルク絨毯についてはその限りではありません。

また、シルク絨毯は水に濡れた箇所が硬化しやすく、その部分だけ色が違って見えることがよくあります。
またウールに比べると染料の定着が悪いため、色が滲みやすいという欠点もあります。
シルク絨毯を長持ちさせるには摩擦や水濡れに注意しながら使う必要があることを知っておくべきでしょう

※関連記事【ウールとシルクの長所・短所を教えてください】
※関連記事【シルク絨毯の方がウール絨毯よりも高級ですよね?】

ランクについて

ランクについて

わが国で俗に「五大産地」とよばれる産地のペルシャ絨毯には、それに似せてイラン国内の別の町で製作されたコピー品が多数存在しています
その一覧を以下に記しておきましょう。

クム産(シルク):ザンジャン産、マラゲ産
クム産(ウール):シャーレザ産
カシャーン産(シルク):ザンジャン産、マラゲ産
カシャーン産(ウール):アルデカン産、ヤズド産
ナイン産:タバス産(6LA、9LA)、カシュマール産(9LA)
イスファハン産:ナジャファバド産
タブリーズ産:ホイ産、カシュマール産

※ナイン産の6LA、9LAについてはこちら

これらは実際に製作された町の名ではなく、有名産地の名を冠して販売されるケースが大半ですが、本物の有名産地の作品に比べると当然品質は劣ります
コピー品とはいえイラン国内で製作された手織絨毯ですから、ペルシャ絨毯であることには違いありません。
予算的な制約からコピー品であることを承知で購入する人がいるのも事実ですので、それはそれで存在意義があるのでしょう。

問題なのは、そうした品質の劣るコピー品に「クム ◯◯」「ナイン ◯◯」のような有名産地の工房の偽サインを付け加え、それがあたかも当該工房で製作された高級品であるかの如く偽って販売する行為です
いまや日本国内の多く絨毯業者がこうした問題ある行為を当たり前のこととして行うようになりました。
長期にわたるデフレとイランの経済成長に伴う仕入価格の上昇により高額品が売れにくくなったいま、本物を安く売るよりコピー品を高く売る方がより多くの利益を得ることができるからです。

マラゲ産を例にあげてご説明すれば、イランでマラゲ産はクム産の3分の1ほどの値段で買えます。
たとえば、クム産を120万円で仕入れて240万円で売ったとすれば、利益は120万円。
ところが、マラゲ産を40万円で仕入れてクム産の半分の120万円で売れば利益は80万円です。
クム産の仕入価格と同じ額で3枚仕入れられる訳ですから、80万円×3枚=240万円。
同じ仕入価格で利益は2倍になります。
そこで、為されるのがこのような記述……ペルシャ絨毯クム産◯◯工房 当店通常価格240万円 → 50%OFF → 特別価格120万円……「50%OFF」と謳っていても実際にはまったく安くなっていないどころか、マラゲ産としては相場よりもかなり高い場合さえあるのです

「有名産地の名を語らなければ売れない」「生活のためだから仕方ない」と言う業者がいます。
しかし、そんな言い訳が詐欺紛いの商売を正当化する理由になるはずがありません。
必ずしも、高価=高品質とは言えない現実がペルシャ絨毯にはあります
高い買物をしないよう、有名産地の名で売られているペルシャ絨毯には本物とコピー品という明確なランクがあることを知っておく必要があるでしょう。

※関連記事【ペルシャ絨毯には有名産地で製作されたものとして出回っている他産地のコピー品があると聞いたのですが、どのようなものがあるのでしょうか?】

工房のサインについて

工房のサインについて

「作者のサインが入った高級品です」などと説明する絨毯業者が多いのですが、必ずしもそうであるとは限りません。
そもそもサインなど後からでも簡単に付け加えられる訳で、ブランドに弱い日本人の性質は、とうの昔にイラン人たちに見透かされています

前述したように、日本に向けて輸出される無銘のクム・シルクやナイン産、あるいはクム・シルクやカシャーン・シルクのコピー品であるザンジャン・シルクやマラゲ産には、有名工房作品の偽サインが付け加えられるのがいまや当たり前にさえなってきました。
画像は偽サインの一例で、上は本物のアボロファズル・ラジャビアンのサイン、下はマラゲ産に後付けされた偽のラジャビアンのサインです
偽ブランド品には厳しい態度で臨むようになった日本の官憲ですが、ペルシャ絨毯については手つかずの状態となっているのが現状。

「そんなに簡単に偽サインが入れられるものか?」とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。
ところが、偽サインを入れるのは思いのほか簡単です
傷んだパイルを結び直すことができるのがペルシャ絨毯のよさのひとつですが、この技術を悪用する訳。
イランでは知的財産権に関わる意識が低いことから、多くの修理職人は罪の意識など抱かず、安い料金で引き受けているのが現実です。

実は、偽物を掴まされてしまう人の典型が工房名に拘る人たちなのです
「〇〇工房の作品が欲しい」とは言うものの、内容など二の次で、とにかく工房名が優先。
その工房の作品が好みに合うからではなく、その工房が有名だから欲しいという訳です。
これを恋愛に例えれば「好きになった人がたまたま富豪の令息だった」のではなく「富豪の令息だから好きになった」ということ。
結婚詐欺師と呼ばれる人たちは、このあたりをよく心得ています。

セーラフィアン工房の作品は高価ですが、それはセーラフィアンのサインが入っているからではありません。
セーラフィアンの名に恥じない「素晴らしい内容の絨毯」だから高価なのです。
それがわからない人というのは悪徳絨毯屋にとって格好のカモ。
有名工房のサインが後付けされた偽物を高く掴まされたにもかかわらず、「〇〇工房の作品を安く買った」と一人悦に入っている……こうした人は結構います。
サインに惑わされることなく自分が本当に気に入った一枚を選ぶことが、のちのち後悔しないための最善策です

※関連記事【工房の銘が入っていれば良質な絨毯と考えてよいのでしょうか?】
※関連記事【偽の工房サインの見分け方】

日本でだけ有名な工房もある

日本でだけ有名な工房もある

ペルシャ絨毯の主要な輸入国はドイツ、イタリア、フランス、スイスなどのヨーロッパ諸国と北米です
近年、これにアラブ首長国連邦、クウェート、カタール、レバノンなどの西アジア諸国や日本が加わり、更に最近になって中国、ロシア、南アフリカ、南米の一部が加わりました。

ペルシャ絨毯の生産量の9割以上はウール絨毯なのですが、これは輸入国の大半が家の中でも靴を履いて生活する欧米の国々であることの証拠でもあります
つまり、日本で人気のクム産やザンジャン産、マラゲ産などのシルク絨毯の需要は世界レベルで見た場合、きわめて低いということ。
当然、工房の知名度もそれに比例しますから、同じく世界レベルで見た場合、クムの工房の知名度はきわめて低いということになる訳です。

そもそもわが国で有名なクムのいくつかの工房については、当該工房の作品を取り扱う日本国内の販売店による(高く売るための)販促活動によりそうなっただけのこと
作品自体は他の多くの工房のそれと品質に大差はありません。
「クムの三大工房」などというのはそうした販促活動に伴う情報操作の典型で、イランでそのようなことを言う者はただの一人もいないのが実際です。
それはイラン国立絨毯博物館の展示品に、当該工房の作品が見当たらないことからも明らかでしょう(クム・シルクは別の工房の作品が展示されています)。

ほぼ同等の品質であるにもかかわらず、値段が倍ほども違う……そうした事例を見かけたら、おかしいと思ってください
高価になればなるほど高品質とは限らない現実が日本の市場にはあります。
販売店の策略に乗せられて、法外な金額を支払う愚だけは犯さないようにしたいものです。

掘出し物などないと心得る

掘出し物などないと心得る

『開運!なんでも鑑定団』でお馴染みの中島誠之助氏は、「ニセモノにひっかかる三条件」として次の三つをあげています。

第一条件:その品物を買ったら儲かると思ったとき
自分自身が本当にほしくって品物を買った場合は、損得勘定ではありません。
しかし「安くしてもらった」「掘り出し物」「他人を出し抜いて独り占めした」などと欲得が一瞬でもからめば、それは形を変えた立派な儲け心です。
他人にそそのかされたり、世の中の風潮に踊らされて買い求めたという場合はとくにキケンがともないます。

第二条件:勉強不足
いまの世の中はマニュアル人間が多いものですから、いろいろなことがマニュアルとしては頭に入っている。
誰かがマニュアルどおりの完璧なコピーを作った場合があったとすると、自分が学んだマニュアルどおりのものだからホンモノだと信じて、ひっかかってしまう。
マニュアルを超えた美意識、広範囲な知識として時代背景の研究と、経験による感性の訓練が本来は必要であり、それらを欠いた勉強すなわち勉強不足から、「ひっかかる」という悲劇が生まれるわけです。

第三条件:おカネがあること
人間はハングリーでなければいけない。
買いたくてもどうしても買えない。
喉から手が出るほどほしいけれどおカネが足りない。
それを買うために努力をしなければいけないという状況に置かれたときのほうが、モノに対しての審美眼が研ぎ澄まされる。
おカネがありすぎると、つい買い方が甘くなってしまう。
ものの見方に妥協が生まれる。
おカネの力でその品物が自由に自分の手に入るわけですから、人間が甘くなる。

『ニセモノ師たち』(2001年、講談社)※一部省略

これらはすべて言い得て妙でしょう。 ペルシャ絨毯についても、とりわけ産地や工房名に拘る人というのはかくの如しで、偽物を掴まされやすいのは間違いありません
こんな人たちはとかく「掘り出し物」に目がないのが常。
怪しげな店やネットオークションを覗いては掘り出し物がないかと目を光らせているようですが……。

更に中島氏はこう続けます。
だから逆の立場でいうと、ニセモノを売りつけるにはそういう相手を探せばいいわけです」とし、「規格どおりの品物を作るか入手して、実体験がなく書物で勉強した人で、本に載っていることを信じやすく、品物をほしがっている金銭欲の強い人で、おカネを持っている人を探しさえすれば、いとも簡単に、ニセモノをはめこみやすいのです」と断じています。
今日、書物にはインターネットも含まれるでしょう。

たとえば「100万円以下の予算で、本物のセーラフィアン工房のドザールを探している」……こうした方がたまにいらっしゃるのですが、これはインチキ絨毯屋たちにとっては鴨がネギを背負ってきたようなもの
「お客様、実は掘り出し物があるのですよ。サインも入っていますし、少し前のセーラフィアンの代表的なデザインの作品です」などと言われ、30年ほど前に大量に製作された全面ジュフティ結びのセーラフィアン風絨毯を買ってしまう……もちろんセーラフィアンのサインは後から付け加えられた偽サインです。

騙す側が100パーセント悪いのは言うまでもありません。
しかし「類は友を呼ぶ」とも言います。
そんなインチキ業者にひっかかる人というのもまた、騙す側と同様に欲にかられた気持ちを持ち合わせていたたことは間違いないでしょう。
これだけは知っておいて欲しいのですが、ペルシャ絨毯に限らず美術工芸品の市場というものは、素人が簡単に掘出し物を手に入れられるほど甘い世界ではありません

セールであろうと何であろうと、相場で300万円以上するものが100万円以下の値段で買える筈がないし、もし買えるたとしたら何らかのカラクリがあることは明白。
損をするために商売をする人などいる筈がないのですから、極端に安いものには安いだけの理由があるというのが現実なのです
「安物買いの銭失い」にならぬよう、そこは冷静に考えるべきでしょう。

最高級のペルシャ絨毯とは?

最高級のペルシャ絨毯とは?

「最高級のペルシャ絨毯とはどんなものですか?」とよくお尋ねをいただきます。
ペルシャ絨毯の価値を決める要素にはさまざまなものがあるのですが、最大の要素は人件費です

織りが細かくなればなるほど完成までの日数を要する訳ですから、織子に支払う日当もそれに応じて増えてゆきます。
また、緻密な織の作品を織ることができるベテランの織子の賃金は、経験の少ない織子の賃金に比べると当然高くなります。
したがって、織が細かくなればなるほど絨毯の値段は高くなる訳です。
ただし、これはあくまで基本中の基本の話。
実際にはノットの種類、素材や染料の質、デザインや工房の知名度、出来の良し悪しなどによっても値段は変わってくるのです

話を本題に戻しましょう。
産地に関係なくペルシャ絨毯全体で見た場合、1平方メートル中のノット数が121万個から144万個以上あれば最高級の部類に入れてよいかと思います
有名なアモグリやセーラフィアンの作品がこれぐらいです。
もちろんイスファハンのアクバル・メヒディー工房やマシャドのジャーファル・アハディアン工房等、もっとノット数の多い作品を製作している工房もありますが、これらは実用というよりコレクション用として売買されるケースが通常ゆえ、例外と考えてよいでしょう。

一般にわが国で知られる十数ほどの産地の他にもイラン国内にはたくさんの絨毯産地があります。
121万〜144万ノット以上の作品を多く製作しているのはイスファハン、カシャーン、クム、タブリーズ、ナインという、わが国でよく言われる五大産地となります。
しかし、これらの産地で製作されたペルシャ絨毯が必ずしも最高級であるとは言えません。
36万ノットのタブリーズ産と121万ノットのフィルザバド産……どちらが高品質であるかは火を見るよりも明らかでしょう。
五大産地の絨毯=最高級品とする誤解が、ペルシャ絨毯の産地偽装を生む原因になっていることに気づく必要があります

ギャッベは芸術品か?

ギャッベは芸術品か?

現在わが国ではモダン・ギャッベが若い世代を中心に人気です。
そして、このモダン・ギャッベを「芸術品」「アート」とする風潮があるようですが……

ギャッベはもともとカシュガイやルリが普段使いのために製作する、いわば消耗品でした。
ギャッベという名称自体「雑な絨毯」を意味するもので、どちらかと言えばゴミやクズに近いニュアンスです
1970年代後半に欧米で注目されはじめるようになるまでは、ギャッベに価値を見出す者はいませんでした。
アンティークやセミアンティークのギャッベがほとんど現存しないのは、こうした理由があるのです。

ご存知でない方が多いのですが、カシュガイやルリが伝統として受け継いできたギャッベは、現在流通しているモダン・ギャッベとはまったく異なるもの
つまり、現代人の趣向に合うように最近になってから作り変えられたのがモダン・ギャッベの正体なのです。
デザインはもとより形状についても然り。
遊牧民は水平型移動式の織機を用いますが、それを用いて製作された絨毯は細長い形状になるのが普通でした。

モダン・ギャッベについては「遊牧民」が牧歌的な生活の中で製作するといったイメージが定着しているようです。
しかし、これはイラン映画『GABBEH』(1996年、モフセン・マフマルバフ監督)と、絨毯商によるイメージ戦略がもたらしたもので、実際にこれを製作しているのは遊牧民ではなく「定住民」である場合がほとんど
工場で大量に紡績・染色した糸を各家庭に振り分け、織りあがったギャッベは工場に集められて洗浄・剪毛(せんもう=パイルを刈り込む作業)されるのが現実です。
ごく一部のカシュガイが「職業」として行っている、観光客用のデモンストレーションを鵜呑みにしてはいけません。

ギャッベは、民衆生活の中から生まれ日常的に使われる地域独特の手工芸品、すなわち「民芸品」の範疇に入るもの。
しかし前述した如く、商業ベースに乗せて製作されたモダン・ギャッベは民芸品と呼ぶのさえ微妙で、北海道の土産物屋に大量に並ぶ熊の彫物に似た存在です
これを芸術品、アートと称するのはやはり問題でしょう。

モダン・ギャッベの中にはブランド名を付され、同等品の二倍以上の値段で販売されているものがありますが、ギャッベが同じサイズのカシャーン産やサルーク産よりも高額などというのは、どう考えても馬鹿げています
ブランドなどとは無縁であるのが本来のギャッベ。
商人の意図とは関係なく、織手の自由な発想のままに製作されるのが本来のギャッベの姿であり、それがギャッベが注目されはじめた理由でもあります。
絨毯商がプロデュースし、分業制度によって売れるデザインを用いて製作されたモダン・ギャッベはあくまで「モダン・ギャッベ」であって、ギャッベとは明らかに別物です。

現代人の好み合わせて誕生したモダン・ギャッベの存在を否定するつもりはありませんし、だからこそ弊社でも取り扱っています。
しかし、いたずらに芸術品・アートやブランドを吹聴し、遊牧民云々と事実とは異なる説明を用いて高値で販売するのはいかがなものでしょうか……。

ペルシャ絨毯の値段について

ペルシャ絨毯の値段について

「ペルシャ絨毯の値段のつけ方はどうなっているのかわからない」という声をよく聞きます
「店によって値段がまったく違う。ひと桁違うなんてこともある」「いきなり半額になったりする。いったい、いくらで仕入れているのか?」……こうした内容なのですが、消費者が抱くペルシャ絨毯の値段についての疑問は、まさに日本の絨毯業界の問題点を指摘したものといえるでしょう。

ペルシャ絨毯の販売サイトを見るとやたらと値引を売りにした店ばかりが目につきます。
50%OFFなど当たり前、中には70%OFFとか80%OFFとかいったところまであります
いつまでたっても閉店しない閉店セール中の店に同じく、セールをしていない日などないにもかかわらず〇〇%OFFというのもおかしなものです。

そもそも、値引しなければ売れないというのは「商品が悪いか」「値段が高すぎるか」「販売員に能力がないか」のいずれかです
逆に言えば値引をウリにしているのは、それしか取柄がないということ。
つまり、商品や値段、知識に自信がないから値引をアピールしているとしか考えられません。
適正価格をもって販売しているならば、極端な値引などできないはず。
まともな商売をしていて、どうしたら70%や80%も値引できるのか理解に苦しみます。

「フランスから直輸入、ルイヴィトン全品50%OFF!」「スイスから直輸入、ローレックス全品70%OFF!」……こんな広告を見かけたら「おかしい……」と思わない人はいないはず
それにもかかわらず、これがペルシャ絨毯となると見事に騙されてしまう人が多いのです。
日本(だけ)で「5大産地」と言われている産地のペルシャ絨毯は高級品の代名詞となっていますが、本当に名のある工房で製作された品は、本来ローレックスやルイ・ヴィトンの製品と同じです。
たしかにイランでは「定価」が存在しない場合が多いのは事実(すべてではありません。ICCは定価販売です)。
しかしモノには必ず「相場」というものがあり、それはイランでも同じことです。

人種差別をするつもりは毛頭ないので誤解しないでほしいのですが、もともと「定価」というものが存在しないイランでは交渉によって値段が決まります
その商習慣は現在も残っていて、一部の商品やサービスを除くと値段交渉が必要になるのが一般的。
高い値段で売ることは販売する者の「交渉力の高さ」を証明することに他ならず、むしろ誇るべき行為である訳です。
彼らにとっては当然のことかもしれませんが「郷に入れば郷に従え」といいます。
そうした商習慣のない日本で自国流のやり方を押し通すことは、やはり問題でしょう。

しかし、彼ら以上に問題なのが日本人業者たち。
本来、そうした場違い的なやり方に注意を促すべき日本人業者たちが一緒になって同じことをやっています
結果、信用が第一の百貨店においても「ペルシャ絨毯だけは大幅値引も可」などというダブル・スタンダードを生んでしまいました。
ペルシャ絨毯に対して多くの日本人が持つ認識は「値段があってないようなもの」。
そして、絨毯商に対して抱くイメージは「騙される」「胡散臭い」です。
情報優位を悪用し、法外に設定した定価から大幅値引きをして購買意欲を煽る……このような商売を続けていれば、絨毯業界の信用はなくなってしまのが当たり前。
その場限りの商売は、自ら自分の首を絞める行為に他なりません。

「架空のメーカー希望小売価格」「根拠のない市価」を用いて商品を安く見せかけるのは消費者庁が警告する不当行為の典型です
うまい話には裏があることをお忘れなく!

※関連記事【あるお店で「半額」にするといわれているのですが、御社ではどれくらい値引してくれるのでしょうか?】

直輸入だから安い?

直輸入だから安い?

「直輸入だから安い」を金科玉条の如くに掲げる絨毯業者は多いのですが、そうであるとは限りません。
直輸入していても高いところは高いし、国内仕入でも安いところは安いです。
たとえ安く仕入たとしても利益を大幅に上乗せすれば売価は高くなるのは当たり前。
つまり、直輸入だから安いとは限りません

そもそも直輸入かどうかなど入荷作業を見なければわかりません。
実際、直輸入していないにも関わらず直輸入を掲げている店はたくさんあります。
本当に直輸入している店というのは、必ずと言ってよいほど証拠となる買付時や入荷時の画像を公開しているもの。
公開できないのはできない理由があるということです。

「当店だけの特殊なルート」などというのも同じで、そんなものが存在する筈がありません
貿易には法に定められた手順・手続きがあるのです。
イラン革命直後、革命政府の意向によりペルシャ絨毯の輸出が滞ったことがありました。
その際、ペルシャ湾岸の町から対岸のドバイに向け小型船に積まれたペルシャ絨毯が大量に密輸出されたことがあります。
もし本当に特殊なルートがあるとすれば、こうした違法なものと疑われても仕方ないでしょう。

品質を見極めるには裏を見ればよい?

品質を見極めるには裏を見ればよい?

もちろん間違いではないのですが、絨毯の価値を決めるのは織の密度だけではありません
よく「裏を見て結び目の数を数えればよい」と言われますが、ノット数はあくまでも要素のひとつにすぎず、他にもデザインや染料の種類、歪みの有無や希少性他、多くの要素を加えた上で絨毯の価値は決まるのです。

ノットにしても「ジュフティ」とよばれる、ごまかしのテクニックを用いて製作された絨毯のノット数は見た目のノット数の半分になり、品質および耐久性は大きく落ちます(※イラスト参照)。
ジュフティには様々な方法があり、多くの場合、感触で見分けるしかありません。
絨毯業者の中にもジュフティを見分けられない者はたくさんいます。
素人にはきわめて困難でしょう。

またシングル・ノット(タフト・バフト)の絨毯の結び目をそのまま数えて「100万ノットあるからこんなに薄い」などと説明する者がいるので要注意
タフト・バフトの場合、縦糸は重なりませんから絨毯は薄くなり、実際のノット数は目に見える数の半分になります

※シングル・ノット(タフト・バフト)についてはこちら

その他、修理痕や縦糸・横糸の掛け忘れ、デザイン構成に影響するほどの結び違い、極端な歪みなども評価に影響するので注意が必要

付け焼刃的知識はかえって命取りになることがあります。

アンティーク・オールドについて

アンティーク・オールドについて

同業の者として恥ずかしい限りですが、絨毯業者の中には情報優位を悪用し、情報弱者である一般消費者を手玉に取ろうと企む不心得者がいるのが現実。
傷みがあったりパイルが擦り切れたりしていて売物にならない中古のペルシャ絨毯を「アンティーク」「オールド」と称し、あたかも価値があるかの如くの説明を加えて販売している者がいるのです

こうした不心得者は店舗を持たずネットオークションなどを通じて商売している無店舗業者に多いようで、ネットオークションには「アンティーク」と説明されたペルシャ絨毯がたくさん出品されているのですが、それらの中に本物のアンティークはまずありません
コンディションのよい本物のアンティークのペルシャ絨毯は希少だからこそ、サザビーズやクリスティーズなどの一流オークション・ハウスでも高値で取引されているのです。

冷静に考えればわかるはずですが、本当に価値のあるアンティークのペルシャ絨毯が機械織の絨毯と同じような値段で買える訳がありません
「安物買いの銭失い」にならぬよう、冷静に思慮していただければと思います。

なお、最近「ストーンウォッシュ・ラグ」あるいは「ゼロパイル・ラグ」の商品名で販売されている絨毯を見かけるようになりました。
貴重なアンティーク絨毯を加工したアート作品らしいのですが、このようなものにアンティークの価値はもちろん、手織り絨毯としての価値さえありませんので、注意してください。

※関連記事【アンティークの定義について】
※関連記事【「ストーンウォッシュ・ラグ」「ゼロパイル・ラグ」の正体】

アンティーク・オールドになり得るペルシャ絨毯とは?

アンティーク・オールドになり得るペルシャ絨毯とは?

需要と供給により成り立っているのが市場です。
絨毯に限らずモノの価値というのは、この重要と供給のバランスによって決まることは言うまでもありません
需要が供給を上回れば価格は上昇し、反供給が需要を上回れば価格は下落する……これが市場原理であることに異を唱える人はいないでしょう。

世界にはアンティーク・オールド絨毯の愛好家や収集家がたくさんいます。
しかし、すべてのペルシャ絨毯が、やがて彼らの購買対象となり得る訳ではないことを知っておかなければなりません
その多くは単なる消耗品となりゆく運命にあるのが現実ですから、「古くなれば価値が出る」などという販売員の言葉を鵜呑みにするのは禁物です。
それでは、アンティーク・オールドになり得る絨毯とはどのようなものなのでしょうか?

新しいものにはない魅力が認められてこそ、古い絨毯はアンティーク・オールドとしての価値を持つことになる訳ですが、まずそれらを購入するのは愛好家やコレクターなど特定の人々であることを理解しておく必要があります。
そうした「通」(つう)の人たちが巷にあふれたありきたりの品に目の色を変えるはずがないことは容易に想像できるでしょう。
つまり、真面目に作られたものであることに加え、生産数の少ないものであるとか、品質が飛び抜けているものであるとか、あるいは色柄が変わったものであるとか、どこかにレアな要素があるものでなければならないということです

端的に言えば「コレクターズ・アイテム」になり得るものであるか否かがキーワード。
たとえ手織であってもコマーシャル・ベースに乗せて大量に機械的に生産された絨毯が、愛好家や収集家の需要を満たすことはないでしょう
需要がない品に価値など認められるはずがないのです。

事実無根のセールストークにご用心

事実無根のセールストークにご用心

「使えば使うほど価値が出る」「いつでも買った値段で売れる」「家宝になる」「毎日土足で踏んでも数百年は使える」「手の小さな子供にしか織れない」「一生のうち一枚しか織れない」「同じデザインは世界に一枚」「虫に食われない」等々
いくつかの絨毯屋を回った経験をお持ちなら、一度は耳にしたことがあるはずです。

すでにペルシャ絨毯をお持ちの方の中には、購入時に聞かされたであろうこうした話を信じて疑わない方が結構いらっしゃるのですが、これらの話は商品を売らんがために絨毯商がでっちあげた作り話にすぎません
ペルシャ絨毯の中には古くなればアンティーク・オールドの価値が出るものもありますが、すべてのペルシャ絨毯がそうでないことは前項にて解説したとおりです。

つまり、いつでも買った値段で売れるペルシャ絨毯など、世界の収集家が垂涎するごく一部のアンティーク絨毯等を除けばあり得ない訳で、現代物のペルシャ絨毯のほとんどがそうはならないことは本ページを読み進んでいただいた方にはご理解いただけるでしょう。
当然、家宝になり得る品などそうそうあるものではない訳です

もちろん道端で拾った小石であっても、それを家宝とするのは個人の勝手。
しかし社会通念上の家宝とは、その家に代々宝として伝えられる貴重で価値のある品のことで、俗的な言い方をすれば「高く売れるもの」のことです。
ペルシャ絨毯に限らず、いつでも購入した価格で買取ってもらえるものなど、ほとんど存在しないのが世の常ですから、いざというときに換金する、もしくは投機の対象とすることを目的にしているのなら、購入は控えた方が身のためでしょう

さて、アンティークのペルシャ絨毯が希少であることは事実なのですが、それでもパイルが擦り切れたり上下端が欠損したものであれば、欧米には考える以上に現存しています。
逆に言えば、良好な状態で残っているものというのはきわめて少ない訳で、それゆえ保存状態のよいアンティークのペルシャ絨毯は高値で取引されるのです。
100年少し前のものでさえこの有様なのですから、数百年も使えるなどというのがいかに非現実的な話であるかがおわかりいただけるでしょう

そして、こうした非現実的な作り話の最たるものが、子供をネタにしたお涙頂戴系のもの
曰く……子供たちは両親を楽にしたい一心で、灯りのないような部屋でひたすらパイルを結ぶ……暗い場所での細かな作業が続くため、織りあがったときには目が見えなくなっている……だから一生のうち一枚しか織れない……だそうです。
いまどき「灯りのない部屋」などと言うのは随分と人を食ったものですが、こんな話をよく調べもせず真に受けて、ペルシャ絨毯を「児童虐待の可能性がある商品」などと非難する人さえいるのです。

義務教育制度のあるイランでは、ほぼすべての子供たちが小中学校に進学します。
僅かに残る遊牧民の子供たちはテント・スクールで学びます。
宿題もたくさん出ますし、学習塾に通うことも珍しくありません。
勉強で忙しい子供たちに何年もかけて絨毯を製作する暇などあるはずがないのです

部族民や一部の農村で製作される絨毯を除けば、ペルシャ絨毯は指図紙に描かれた下絵に沿って製作される訳ですが、指図紙は何度も使い回されます。
販売を目的として、つまり利益を得ることを目的として製作されているのですから、費用対効果を考えれば当然であることを知っておかなければなりません。
また、ウールやシルクを素材として製作されるペルシャ絨毯は、カツオブシムシやイガなどの幼虫にとっては格好の餌。
「天然染料が使われているから虫が避ける」とか「織りが緻密なので虫が入り込めない」とかいった話は100パーセント嘘なので絶対に信用しないようにしてください。

失敗なくペルシャ絨毯を購入するには

失敗なくペルシャ絨毯を購入するために

ペルシャ絨毯を購入するに当たってもっとも大切なことは、工房名や産地、年代等にとらわれず作品自体と向き合うこと。
そして、自分の「好み」を認識しておくことです。
先入観を捨て、自身の好みを十分に認識した上で、自らの感性で作品に接してください
知識は後付けで構いません。
気に入った作品が見つかったら、それについてとことん学べばよいのです。

自分の感覚で掘り出し物を見つけようとする人もいますが、ペルシャ絨毯の目利きになるのは容易なことではありません。
ペルシャ絨毯の市場はプロでも見極めが難しい世界。
百戦錬磨の言葉巧みな業者もいます。
自身で掘り出そうとするのは、避けた方が賢明です

よいペルシャ絨毯と出会う近道は、よい絨毯商に巡り合うこと。
これに尽きます。
よい絨毯商とは、専門知識が豊富で優れた鑑識眼を持ち、なおかつ人間性が優れている人です
絨毯商によって扱う商品に対する見立てや情熱は様々。
ゆえに相手の人柄や信頼性を観察し、判断する「人間力」が必要になってきます。

よい絨毯商を判断するポイントは、良質の作品を保有し、選び抜いた品を提供しているか。
作品の「本質」を事細かくわかりやすく説明してくれるかです。
反対に、工房名や大幅値引きをアピールしている業者は要注意。
また、いつでも行方を眩ませることができる無店舗販売やネットオークションでの購入も避けた方が無難でしょう。
よい絨毯商は顧客をよいコレクターにしようと親身に考え、ベストな提案をしてくれます。
よい絨毯商と付き合うことが、失敗なくペルシャ絨毯を購入するための極意なのです

まとめ

  • 機械織絨毯やイラン以外の国で製作された手織絨毯はペルシャ絨毯ではない(ネットオークションや無店舗販売で買うのは避ける)。
  • 使用する場所によってウール絨毯にするかシルク絨毯にするかを決める(シルク絨毯はウール絨毯ほど堅牢ではない)。
  • 有名産地の作品として売られている他産地で製作されたコピー品があることを知っておく(有名産地の品だから高品質であるとは限らない)。
  • 偽の工房サインが後付けされた偽物があることを知っておく(工房名に拘らず、あくまで内容で選ぶ)。
  • 日本でだけ有名な工房もある(高価になればなるほど高品質とは限らない)。
  • 121~144万ノットあれば最高級(五大産地のペルシャ絨毯が最高級とは限らない)。
  • 「50%OFF」や「70%OFF」に騙されない(うまい話には裏がある)。
  • 直輸入だから安いとは限らない(密輸でもしない限り「特殊なルート」などあり得ない)。
  • ノット数だけで絨毯の価値が決まる訳ではない(ジュフティに注意)。
  • すべての古い絨毯にアンティーク・オールドの価値がある訳ではない(古くなって価値が出る絨毯はむしろ僅か)。
  • アンティーク・オールドになり得るのは、コレクターズ・アイテムになり得る品
  • 絨毯商の言うことを鵜呑みにしない(素人に毛が生えたほどの知識しか持たない絨毯商もいる)。
  • よい絨毯商とだけ付き合う

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